通常、これから株式投資を始めるかたは、これから上がりそうな株を選んで、株を買い、見込み通りに上がれば、株を売るというパターンで取引をされることと思います。

ところが、株式市場では、この反対に、これから下がりそうな株を選んで、株を売り、見込み通りに下がれば、株を買い戻すという方法もできるのです。

このやり方を空売りと呼びます。

空売りをするためには、通常の証券口座以外に信用取引口座も開設しなければならないなど、いくつかの制限事項があります。

しかし、空売りができるようになれば、下落相場においても利益を上げられるなどの大きなメリットがあります。

空売りのメリット

なぜ、空売りをする必要があるのか?

ほとんどの方は、これから上がりそうな株を選んで買うことと思います。

しかし、日経平均株価が大幅下落する局面においては、ほとんどの株が大幅下落してしまいます。

むしろ、今後も企業の成長が見込まれている成長株のほうが、それまで順調に株価が上がってきたこともあって、株価の下落率が大きいものです。

しかし、空売りができれば、日経平均株価が大幅下落する局面においても、利益を出せるのです。

空売りのメリット・活用法とは?

では、どんな場面で空売りをするかですが、大きく分けると、以下の二通りのやり方があります。

株の下落を狙って売る

ひとつは株の下落を狙って売る方法です。

通常の株の売買であれば、
「安いところで買って、高いところで売る」のですが、

空売りの場合は、
「高いところで売って、安いところで買い戻す」
のです。

下の図は、2018年1月~2019年1月にかけてのトヨタ自動車の日足チャートです。

日本を代表する企業であり、比較的値動きの少ない株と思われています。

それでも、700円~800円程度、株価の1割程度の上下動は、年に10回以上もあります。

つまり、トヨタのような日本で一番の大型株であっても、

「安いところで買い、高いところで売る」
「高いところで売って、安いところで買う」

というチャンスが、ほぼ毎月のようにあるわけです。

このような株の売買方法をスイングトレードうねり取りと言いますが、このやり方だけで、年に30%以上も利益を出している専業投資家もいるのです。

手持ち株が下がりそうだが、売りたくない時のつなぎ売りとは?

もうひとつの空売りの活用法が手持ち株に対するつなぎ売りです。

これは、株の長期投資をしている人にとって特に有効な方法です。

先ほどのトヨタの例でいえば、2016年5月には、株価は5,000円前後まで下落していました。

この頃に長期投資の目的で株を購入した人は、多少株価が変動したとしても、ずっと持ち続けたいと思うかもしれません。

しかし、短期的には、日経平均も下がってきており、トヨタも下がりそうだ。

こんな時に、短期的な値下がりを狙って、空売りをするのです。

これをつなぎ売りと言います。

つなぎ売りのメリットは、なんと株の取得単価をゼロ円以下にできる可能性があることです。

例えば、トヨタ自動車を

2016年5月に5,000円で1,000株購入したとします。

そして、その後、株価が高くなったところを空売りし、安くなれば買い戻すということを何回も繰り返し、1,000円×5回の値幅取りに成功しました。

こうなると、最初の取得単価5,000円が実質ゼロ円になってしまうのです。

空売りの勉強にオススメの本

相場師でもあり、株式投資の本を多数出版しておられた故林輝太郎氏は、バブル時代に新日鉄の空売りをされました。

そして、その後、なんと足掛け10年に渡って、新日鉄を空売りし続けたことで、億をはるかに超える資産を作られたとのことです。

林輝太郎氏の空売りやつなぎ売りに興味のある方にオススメの本です。

上げ相場よりも短期間で儲かる場合が多い

さらに、空売りのメリットとしては、上げ相場よりも短期間で儲かることが多いのです。

最近では、年に数回、NYダウが1日に1,000ドルも下げることがあります。

こういった場合は、世界的な株安となり、日経平均も1,000円近く下げることが多く、多くの株が数日で10%以上も下げます。

日経平均が1日で1,000円も上げるようなケースは滅多にありません。

しかし、空売りの場合は、こういったタイミングにうまく乗ることができれば、数日から1週間程度で大きな利益になるケースも少なくありません。

空売りのデメリット

もちろん、デメリットもあります。投資初心者にとって、空売りが危険とされるのは、以下の理由によるものです。

損失が青天井

現物株を買った場合は、あらかじめ損失が限定されます。

例えば、A社の株を1,000円で100株購入した場合。

最大損失額=-1,000円×100株=-100,000円

最悪、A社が倒産したとしても、損失は100,000円に限定されます。

しかし、空売りの場合は、損失がどこまで膨らむか分かりません。

例えば、A社の株を1,000円で100株空売り。

1年後、A社の株が5,000円まで上昇。

最大損失額=(1,000円-5,000円)×100株=-400,000円

こういったように、空売りした金額よりも、はるかに大きな損失になってしまう可能性があるのです。

まあ、実際には、評価損が大きくなりすぎれば、強制決済となります。
しかし、計算上は、資産を超える損失の可能性もあるということです。

レバレッジをかけすぎる

空売りの場合は、信用取引口座の開設が必要ですが、信用取引の場合は、資産の約3倍まで取引が可能です。これをレバレッジ(てこの力)をかけるといいます。

信用取引の場合、もちろん、空売りだけでなく、買いもできるのですが、
30万円の資金で100万円まで株が購入できます。

例えば、現物買いの場合なら、
1,000円の株なら、300株までしか買えません。

しかし、信用買いなら、1,000株も購入できるのです。

1,000円で購入した株価が1,200円まで上がった場合、
現物株なら、200円×300株=60,000円の利益ですが、

信用取引ならば、
200円×1,000株=200,000円となり、
一気に資産が300,000円から500,000円に増えます。

しかし、もちろん、失敗した場合は、あっという間に資金がなくなります。

株で失敗する人の最大の原因が、このレバレッジをかけすぎるためと言われています。

決して、自分の資金を超えるような取引はしないようにしましょう。

空売りの制限事項

上述のように、空売りではリスクもあるものの、下落相場でも利益が出せるというのは、大きなメリットです。

ただし、以下のようないくつかの制限事項があります。

信用取引口座の開設が必要

通常の証券口座とは別に信用取引口座が必要となります。

現物買いに比べて、リスクも大きくなることから、信用取引口座の開設にあたっては、多少の投資経験を要求する証券会社が多いようです。

一般信用取引と制度信用取引の違い

信用取引には、一般信用取引と制度信用取引の2種類があります。

一般信用取引とは?

一般信用取引とは、投資家とそれぞれの証券会社の間で結ぶ契約のことです。

もし、あなたが、SBI証券で口座を開いているなら、SBI証券との間で結ぶ契約となります。
したがって、金利や返済期限も証券会社によって異なります。

証券会社によって、異なりますが、全ての銘柄を信用取引ができるとしている証券会社もあります。

制度信用取引とは?

制度信用取引とは、証券取引所が制度信用銘柄として指定している銘柄のみを信用取引の対象としています。

こちらは、証券取引所(東証など)が制定している制度ですので、返済期限の条件は、証券会社によって変わることなく一定です。

空売りをするなら、制度信用取引を利用すべき2つの理由

制度信用取引では、空売りできない銘柄も数多くあるのですが、それでも、恒常的に空売りをするならば、以下の理由から、制度信用取引で空売りできる銘柄に限定すべきです。

制度信用銘柄のほうが、株価変動が緩やかで、規則性がある。

制度信用取引ができる銘柄は、トヨタ自動車など、ある程度の大型銘柄で社歴も古い会社の株が多いです。

一般的には、こういった会社の株価のほうが、株価変動も緩やかで、かつ、株の動きにも一定のリズムがあると言われています。

一方、どうしても小型株や新興株では、値動きが大きく、かつ、ランダムになります。

空売りをするなら、制度信用取引ができ、かつ、株価の動きに一定のリズムがある株に限定しましょう。

制度信用取引のほうがコストが安い

証券会社によっても異なりますが、制度信用取引のほうが、取引コストが安い場合が多いです。

取引手数料以外のコストがかかる

現物株の場合は、株を買ったり、売ったりする際の売買手数料しか発生しませんが、信用取引の場合は、以下のようなコストが発生します。

信用金利・貸株料とは?

信用買いの場合、証券会社からお金を借りて、株を買うといった形になります。

このお金に対して金利が発生します。これを信用金利と呼び、金利は証券会社によって異なりますが、制度信用の場合で、年利 1.35%~3.10%、一般信用の場合で、年利 2.50%~4.10%です。

同様に、信用売りの場合、証券会社から株を借りて、株を売るといった形になります。

この場合は、株を借りるお金が発生します。これを貸株料と言います。
金利は証券会社によって異なりますが、年利1.15%~2%です。

逆日歩とは?

さらに、空売りの場合は、逆日歩が発生する場合があります。

空売りの場合、証券会社から株を借りて売るのですが、市場で借りられる株が不足すると証券会社は、機関投資家などから株を借ります。その際の調達費用が、逆日歩として、投資家に請求されます。

株の返済期限

さらに、空売りの場合は、株の返済期限もあります。

一般信用取引の場合は、証券会社によって異なり、無制限の会社もあります。

制度信用取引の場合は、6か月です。

ただ、前述の林輝太郎氏のように、6か月ごとに新日鉄の買戻し&新規空売りを継続し、足掛け10年間同一銘柄を空売りすることも可能です。

まとめ

下落相場でも利益があげられるというのは、空売りの大きなメリットです。
しっかりと資金管理を行ったうえで、空売りも実施していきましょう。