AIで候補を探すより先に、長期成長を見抜くための「物差し」を持とう
「10倍になる株をAIで探せないだろうか」
今なら、そう考える人も多いと思います。
しかし、私が考える10倍株探しは、銘柄当てではありません。
大きく成長できる企業には、成長するだけの「構造」があります。その構造を見つけ、公開情報を使って仮説を作り、決算のたびに検証していく。
これが、私が考える10倍株研究の基本です。
10倍株は「安い株」ではなく「大きくなる企業」から生まれる
株価が10倍になると聞くと、つい低位株や話題株に目が向きます。
しかし、株価が安いことと、企業価値に大きな伸びしろがあることは同じではありません。
重要なのは、
「いま安いか」ではなく、「10年後に会社そのものが何倍にも大きくなれるか」
です。
私がまず見るのは、巨大な市場の中で、顧客が抱えている問題を従来より明確に解決している企業です。
そして、その解決方法を何度も繰り返し販売できるかを見る。
商品が1個売れるたびに、人員やコストも同じ割合で増え続ける事業より、ソフトウェア、データ、ブランド、ネットワーク効果、物流網などを積み上げることで、規模が大きくなるほど競争力や利益率が高まる事業のほうが、長期成長には向いています。
私が最初に見る5つの条件
10倍株候補を見るとき、まず次の5つを確認します。
- 市場そのものが長期で拡大しているか
- 顧客から選ばれる明確な理由があるか
- 売上の伸びが一時的な流行ではなく継続可能か
- 利益率とキャッシュ創出力が改善する余地があるか
- 経営者が資本を誠実かつ合理的に配分しているか
もちろん、この5項目だけで10倍株が見つかるわけではありません。
これはあくまで、企業について仮説を作るための入口です。
その後、決算資料、有価証券報告書、競合企業の動向、顧客の評価などを重ねながら、
「最初に考えた成長仮説は、本当に正しかったのか」
を確認し続けます。
私が「企業の構造」を意識するようになった原点
一般論だけでは分かりにくいと思うので、私自身の経験を少しお話しします。
1998年、私は外資系の物流会社に転職し、サプライチェーン・マネジメント、いわゆるSCMのコンサルタントになりました。
そこで最初に担当した大きな仕事の一つが、Dell Computerでした。
大阪の倉庫で使用するWMS、Warehouse Management System、つまり倉庫管理システムの開発に関わりました。
当時のDellは、とても面白い会社でした。
今でこそインターネットで注文して商品が直接届くのは当たり前ですが、当時としては、インターネットを使った直販、受注生産、在庫を極力持たない仕組みは非常に画期的でした。
顧客から注文を受けてからパソコンを組み立てる。
販売店を通さず直接販売する。
在庫期間を短くする。
顧客から代金を受け取るタイミングと、部品メーカーへ支払うタイミングを工夫することで、キャッシュフローも改善する。
単に「良いパソコンを作った会社」ではありません。
パソコンの売り方、作り方、在庫の持ち方、お金の回し方そのものを変えた会社でした。
当時、「世界のパソコン会社の中で、本当に儲かっているのはDellくらいだ」といった話を聞いた記憶があります。
私は実際にその仕組みの一部に関わりながら、
「こういうビジネスモデルを作れる会社は強い」
ということを肌で感じました。
今振り返ると、これが私の「企業の構造を見る」という考え方の原点の一つだったと思います。
ところが私は、Amazonを見抜けなかった
同じ頃、話題になり始めていた会社がAmazonでした。
ただし、当時のAmazonは今とはまったく違います。
まだ規模も小さく、利益も十分に出ていませんでした。
その頃、何かの雑誌だったと思いますが、二人のファンドマネージャーの会話を紹介した記事を読んだ記憶があります。
若いファンドマネージャーが、
「Amazonの株は上がっていますが、会社は大赤字ですよ。こんな会社に投資する人がいるんですね」
と言う。
すると先輩のファンドマネージャーが、
「お前、ファンドマネージャーに向いていないな」
という趣旨のことを返す。
そんな記事でした。
当時、私は株式投資をほとんどしていませんでした。
そして正直に言えば、私自身の感覚は新人ファンドマネージャーの側でした。
「Dellのほうがはるかに大きいし、利益も出ている」
「DellがAmazonのような事業をやればいいのではないか」
「場合によってはDellがAmazonを買収することだってできるのではないか」
そのくらいに考えていました。
しかし、私は重要なことを見落としていました。
重要なのは「現在の利益」ではなく「何を自社に蓄積しているか」
Dellの物流システムは、私が勤務していたような外部に委託していました。
一方、当時まだ規模の小さかったAmazonは、膨大な商品を扱うための複雑な物流管理やITシステムを、自分たちの中に作り上げようとしていました。
商品数が増える。
顧客が増える。
倉庫が増える。
注文量が増える。
それでも正確に商品を探し、ピッキングし、梱包し、配送しなければならない。
これは極めて難度の高い仕事です。
Amazonはそこに巨額の資金を投入し続けました。
当時の損益計算書だけを見れば、
「なぜこんなに赤字なのか」
と見えたでしょう。
しかし別の見方をすれば、
将来、競合他社が簡単には再現できない物流・IT・顧客データのインフラを作っていた
とも考えられます。
そして、その仕組みが後に巨大な参入障壁になっていきました。
私は当時、それを十分に理解できませんでした。
この経験から、10倍株を見るうえで非常に重要なことを学びました。
現在の利益だけを見るのではない。
その会社は、いま何を積み上げているのか。
そして、
その積み上げは、5年後、10年後に他社が真似できない競争優位になるのか。
ここを見る必要があります。
「赤字企業だからダメ」でも「成長企業だから良い」でもない
もちろん、赤字なら何でも将来への投資というわけではありません。
単に事業モデルが悪く、赤字が続いている企業もあります。
だからこそ見るべきなのは、
その赤字が「浪費」なのか、それとも「未来の参入障壁を作る投資」なのか
という違いです。
Amazonの物流網やITインフラは、後から振り返れば後者でした。
しかし、それを当時判断するのは簡単ではありません。
だから企業を見るときには、利益だけでなく、
- 顧客数は増えているか
- 商品やサービスの利用頻度は増えているか
- 規模が大きくなるほど競争力が強くなるか
- 蓄積したデータや物流網、技術が他社との差になっているか
- 投資した資金が将来のキャッシュフローにつながる構造になっているか
まで考える必要があります。
これが、私が10倍株を「株価」ではなく「企業の構造」から考える理由です。
AIは銘柄を決める機械ではなく、調査を深くする相棒
今では、この企業分析にAIを使えるようになりました。
ただし、
「10倍になる株を教えて」
とAIに聞くだけでは危険です。
AIは未来を保証できませんし、古い情報や誤った情報を出すこともあります。
そこで私は、AIには結論ではなく調査作業をさせるのがよいと考えています。
例えば、
「過去5年間の売上高と営業利益率を整理して」
「競合3社との違いを比較して」
「決算説明資料から経営者が繰り返し話しているテーマを抽出して」
「この会社の成長を止めるボトルネックを5つ挙げて」
「私の強気仮説に対する反対意見を作って」
といった使い方です。
AIによって、個人投資家でも以前とは比較にならないほど大量の情報を整理できるようになりました。
しかし最後は、必ず会社のIR資料や法定開示など、一次情報へ戻ります。
AIがそう言ったから投資するのではない。
AIを使って仮説を作り、自分で一次情報を確認し、その仮説を修正する。
私は、この使い方が成長株研究には向いていると思っています。
今日からできる15分の行動
まず、気になる企業を1社だけ選んでみてください。
そして最新の決算資料を開き、次の3つだけ考えます。
1.売上は、なぜ伸びたのか。
2.その成長には再現性があるのか。
3.この会社の成長を止める最大のリスクは何か。
まだ株を買う必要はありません。
株価を見る前に、企業そのものを見る。
この習慣を続けるだけでも、会社を見る解像度はかなり変わると思います。
10倍株探しの第一歩は、未来の株価を当てることではありません。
「なぜ、この会社は大きくなれるのか」を自分の言葉で説明できるようになること。
そこから始まります。
AIに「おすすめ株」を聞くだけでは、投資力は身につきません。
大きく伸びる企業には、共通する「成長の構造」があります。
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