AI、ロボット、再生可能エネルギー、高齢者向けサービス。ニュースで成長分野を知ると、「この市場に関係する会社を買えば株価も上がるのでは」と考えたくなります。
市場の拡大は、企業が売上を伸ばすための大切な追い風です。ただし、市場全体が成長しても、参加企業が同じように利益を得るわけではありません。競争が激しくなり、値下げや先行投資が増えれば、売上が伸びても利益が残らない会社があります。大きな需要をつかんでも、その利益が部品会社、販売会社、プラットフォームなど別の場所へ移ることもあります。
この記事では、成長市場を見つけた後に「誰が利益を得るのか」を調べる順序を、初心者向けに説明します。
市場の成長と企業の利益は別に考える
Contents
市場が年々大きくなると、その中で活動する企業には販売機会が増えます。しかし、売上の増加がそのまま利益の増加になるとは限りません。
利益は、売上から仕入れ、人件費、広告、開発、設備などの費用を引いた残りです。売上が20%増えても、顧客を獲得する費用や原材料費が30%増えれば、利益率は下がる可能性があります。
成長市場には多くの企業が参入します。商品が似ていれば価格競争が起こり、顧客を獲得するための広告費も増えます。将来の需要に備えて工場やシステムへ投資すれば、先に現金が出ていきます。市場が魅力的であるほど、競争も投資負担も大きくなる場合があるのです。
初心者は、市場規模、対象企業の売上、利益と現金を分けて確認します。これらを一緒にすると、「市場が伸びているから、この会社も儲かるはず」という飛躍が起きます。
「誰が利益を得るか」は取引の流れから見る
一つの商品やサービスが顧客へ届くまでには、複数の企業が関わります。原材料、部品、製造装置、完成品、ソフトウェア、販売、保守などです。このつながりを価値連鎖、またはバリューチェーンと呼びます。
たとえば、ある新しい機器の需要が増えたとします。完成品メーカーの販売台数は伸びても、競合が多く値下げが続けば、利益率は上がりません。一方、欠かせない部品を少数の会社しか供給できなければ、その部品会社は価格を維持しやすくなります。導入後に毎月利用料が発生するソフトウェア会社は、継続収入を積み上げられるかもしれません。
大切なのは、成長テーマの中心に見える会社だけを見るのではなく、取引のどこで交渉力が生まれるかを調べることです。
顧客が選ぶ理由、乗り換えにくさ、価格決定力、販売後の継続収入、成長に必要な設備や在庫を調べると、市場の成長が企業の売上、利益、現金へどのようにつながるかが見えてきます。
市場より速く伸びる理由を分解する
対象企業の売上が伸びているときは、「成長市場だから」で終わらせず、何が増えたのかを分解します。
売上は、おおまかに「顧客数×一人あたりの購入額」で考えられます。製造業なら販売数量と単価、サービス業なら契約数と一契約あたりの売上に置き換えられます。
市場全体と同じ程度の成長なら、追い風に乗っている可能性があります。市場より速ければ、シェアを奪っている、新商品が支持されている、販売地域が広がっている、単価を上げられているなどの理由を探します。
反対に、市場が伸びているのに売上が伸びない場合は、顧客を失っている、商品が選ばれていない、生産能力が足りないなどの問題が考えられます。市場全体の数字は、企業の強さを測る比較対象にもなるのです。
売上の伸びだけでなく、利益率、営業キャッシュフロー、在庫や売掛金も確認します。
利益が残る会社を見つける五つの確認
成長分野の企業を比べるとき、私は次の五つを一つずつ確認します。
市場の成長理由が続くか
一時的な流行ではなく、顧客の課題、人口構造、技術変化、規制対応など、需要を生む理由を確認します。「何年後に何兆円」という予測だけでなく、誰が何のために支払うのかを見ます。
企業の位置に利益が集まるか
バリューチェーンを書き出し、代替しにくい部品、データ、販売網、保守などを持つ企業を探します。取引先に対して価格や条件を決めやすいかも重要です。
成長が数字で確認できるか
売上、顧客数、単価、販売数量などを数年分並べます。市場平均より速い成長なら、その理由を決算資料や説明資料で確認します。
利益率と現金が残るか
売上が増えるほど利益率が下がっていないか、設備や在庫へ過大な資金が必要ではないかを見ます。利益と営業キャッシュフローの方向が大きく違う場合は、原因を調べます。
現在の株価が期待を織り込みすぎていないか
成長市場として人気が高まると、将来の成功を先に株価へ織り込む場合があります。良い会社であることと、どの価格でも良い投資になることは別です。成長が予想を下回る場合も考えます。
具体例:市場は伸びても三社の結果が違う
仮に、業界全体の売上が毎年15%伸びている市場に、A社、B社、C社があるとします。
A社は完成品を販売し、売上は20%増えています。しかし値下げ競争が激しく、営業利益率は10%から6%へ低下しました。売上は伸びても、利益は伸びにくい状態です。
B社は欠かせない部品を供給し、売上は12%増にとどまります。一方で、顧客が簡単に代替品へ切り替えられず、営業利益率は18%を維持しています。市場成長より売上は遅くても、利益の質は高い可能性があります。
C社は導入後の保守サービスを提供し、契約数と継続率が上がっています。初期の人材投資は必要ですが、契約が積み上がるほど一顧客あたりの採算が改善しています。
企業改善の経験から見る成長の落とし穴
私はSCMや業務改善の仕事で、売上が増えるほど現場が苦しくなる会社を見てきました。受注は伸びていても、欠品を避けるため在庫が増え、急な生産変更や特急輸送が重なり、利益と現金が残らない状態です。
外から見ると成長企業でも、業務の中では成長を処理できていない場合があります。投資家としては、売上高だけでなく、在庫回転、納期、設備投資、利益率、営業キャッシュフローなどを組み合わせて見ます。
市場の追い風は重要です。しかし、その追い風を利益へ変える仕組みが企業の中にあるかが、より重要です。
まとめ
成長市場は、企業にとって大切な追い風です。しかし、市場が伸びるだけで、すべての関連企業の利益や株価が上がるわけではありません。
市場規模、企業の売上、利益、現金を分けて考え、価値連鎖のどこに利益が集まるかを確認します。顧客が選ぶ理由、乗り換えにくさ、価格決定力、継続収入、必要な投資を調べれば、「誰が利益を得るのか」が見えやすくなります。
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